
管理を減らすほど、人は自律して成果を出す。カギは「ふりかえり」と引き算の発想でした。
「管理職を増やしても、なぜか現場の動きが鈍い」。そんな悩みを抱えていませんか。
倉貫義人さんの『管理ゼロで成果はあがる』は、上司も部署も評価制度もなくした会社が、それでも高い成果を出し続ける仕組みを描いた一冊です。著者が経営するソニックガーデンでは、有給の許可も経費の事前承認もありません。社員が自分で考え、自分で決める。一見すると無謀に見える働き方が、実は理にかなっている。読み終えたとき、管理とは「足し算」ではなく「引き算」で設計するものだと気づかされました。この記事では、初心者の方にもわかりやすく、本書から得た10の学びと、現場で試した感想をまとめます。
私がこの本を手に取ったのは、会社員として「管理されるストレス」を、経営者として「管理するコスト」を、両方の立場で味わってきたからです。マネージャーを置けば置くほど会議が増え、報告のための資料づくりに時間が溶けていく。その違和感に答えをくれそうな書名に惹かれました。
| 書名 | 管理ゼロで成果はあがる ―「見直す・なくす・やめる」で組織を変える |
| 著者 | 倉貫義人 |
| 発売日 | 2019年1月 |
| 出版社 | 技術評論社 |
| ページ数 | 272ページ |
| 読了日 | 2026年6月 |
※本記事は書籍の内容紹介および筆者の感想です。書影・本文の著作権は著者・出版社に帰属します。引用は行わず、筆者の言葉で要約しています。
【こんな人におすすめ】自律する組織のつくり方を知りたい人へ

本書は、こんな悩みを抱える方にこそ届けたい一冊です。読書が苦手な方でも、章ごとに「見直す・なくす・やめる」と整理されているため、気になる部分から拾い読みできます。
管理ばかり増えて現場が疲れている経営者・役員の方
マネージャーを増やしたのに、なぜか意思決定が遅くなった。
報告会議と資料づくりに現場の時間が奪われている。そんな手応えのなさを感じている経営層に響く内容です。著者が選んだのは、管理を足すのではなく、思いきって引く方向で組織を設計する道。管理コストそのものを疑う視点が手に入ります。
評価制度や目標管理に違和感を持っているリーダーの方
低めの目標を立てる人ほど評価が高くなる。そんな矛盾に心当たりはありませんか。
本書は評価をなくすという大胆な選択と、その代わりに何を置いたのかを具体的に語ります。目標管理面談に疲れたリーダーにとって、考え方を見直すきっかけになるでしょう。
チームの生産性をもっと高めたいマネージャーの方
残業を減らしたいのに、仕事のやり方そのものは何年も変わっていない。
本書の主役である「ふりかえり」は、まさにその停滞を崩すための習慣です。週に一度、1時間から始められる手軽さも魅力。チーム改善の第一歩を探している方の手引きになります。
指示待ちの部下に困っている上司の方
言われたことしかしない。そんな部下に悩む上司は少なくありません。
著者は「人を育てる」のではなく「育つ環境を与える」と言いきります。任せ方、期待の伝え方、フィードバックの順番。部下が自分で動き出すための関わり方が、ていねいに描かれています。
フリーランス・小さな会社で働き方を見直したい方
少人数だからこそ、管理に時間をかけている余裕はない。リモートワークや業務の効率化に取り組みたい個人事業主・小規模チームにも実践的な内容です。タスクの小口化や時間対効果の考え方は、ひとりの働き方にもそのまま応用できる点が魅力。明日から試せるヒントが詰まっています。
【用語解説】この記事で使うビジネス用語
ここでは、本書を読むうえで知っておくと役立つビジネス用語を整理します。本記事には出てこないものも含め、本書のなかで使われている言葉をやさしくまとめました。
- ふりかえり(KPT):仕事の進め方を定期的に見直す時間。続ける(Keep)・問題(Problem)・試す(Try)に分けて改善案を出す手法
- 心理的安全性:「失敗や反論を口にしても大丈夫」とメンバーが安心できる状態
- セルフマネジメント:上司に管理されず、自分で考え・決め・責任を持って成果を出す力
- ホラクラシー:上司と部下の上下関係をなくし、役割ごとに権限を分散させた組織の形
- ノーレイティング:年1回のランクづけ評価をやめ、日常の対話でフィードバックする考え方
- パレートの法則:成果の大部分(約8割)は、全体の一部(約2割)が生み出すという経験則。「80対20の法則」とも呼ばれる
【10の学び】管理ゼロで成果を出す組織の仕組み

ここからは、本書から受け取った10の学びを順に紹介します。それぞれに、私自身が現場で試した感想を添えました。
1. 管理職ゼロでも、自律する組織なら成果は出る
著者の会社には管理職が1人もいません。部署もなく、指示命令する上司もいない。それでも社員全員が自分で考え、自主的に働いています。なぜ成り立つのか。前提にあるのは「自律」です。守るための管理ではなく、各自が得意分野で力を発揮する設計になっている。
私が小さなチームを率いたとき、報告ルールを半分に減らしたら、逆に相談の質が上がりました。管理は安心材料に見えて、実は主体性を奪っていたのだと痛感した経験です。
2. 「ふりかえり」が生産性を抜本的に変える
本書の中心にあるのが「ふりかえり」です。
業務そのものではなく、仕事の進め方を定期的に見直す時間を指します。やり方はシンプル。KPTで全員が意見を出し切り、精神論ではなく具体的なアクションに落とし込む。まずは週に一度、1時間から始める。月曜の朝にこの時間を15分だけ設けたところ、チームの改善提案が翌月には2倍近くに増えました。問題を個人のせいにせず、進め方の問題として話せる。その安心感が、発言量を押し上げたのだと思います。
3. がんばるより「時間対効果」で考える
仕組み化のコツは「成果を高める」発想ではないと著者は言います。問うべきは「今やっている仕事を減らしても、同じ成果を出すにはどうするか」。発想がまるで逆なのです。仕組みづくりに時間がかかっても、トータルで時間対効果が高くなれば正解。
私は毎週つくっていた進捗資料を思いきって廃止し、その15分を相談の時間に変えました。誰も困らないどころか、判断は速くなった。「丁寧さは本当に必要か」と問い直す習慣が身についた瞬間でした。
4. 完璧を目指さず、80%で終わらせる勇気
「80%の完成度には2割の時間でよく、残り20%を高めるのに8割の時間がかかる」。パレートの法則をふまえ、いっそ80%で終えてはどうかと著者は提案します。現実世界に100%などなく、完璧主義は自己満足にすぎない。マーク・ザッカーバーグの「完璧を目指すより、まず終わらせろ」という言葉も紹介されています。
資料を磨きすぎて提出が遅れる。私にも覚えのある失敗です。8割で一度見せて相手の反応をもらうほうが、結果的に早く良いものになると今は実感しています。
5. 大きな仕事は30〜45分単位に小分けする
大きすぎるタスクの問題は、進捗が外から見えなくなること。ときには本人にもわからなくなります。そこで著者は、1つのタスクを30〜45分、長くても1時間で終わる単位に分けます。コツは機能や構造ではなく、絶対的な時間で区切ること。小さく区切ると進捗を実感でき、精神衛生にも良いと言います。
私は新規事業の準備で、終わりの見えない調査に押しつぶされそうになった経験があります。45分単位に割り直しただけで、不安が「次の45分」に変わった。タスク管理が苦手な方にこそ試してほしい工夫です。
6. 「作業」ではなく「仕事」を任せる
著者は「作業」と「仕事」を分けて考えます。作業は決められた手順をこなすこと。仕事は誰かに価値を届ける活動です。任せるなら後者を渡したい。ポイントは依頼の仕方にあります。「これをやって」ではなく「困っていて、君の得意な力で助けてほしい」と相談から入る。そして最終判断は本人にゆだね、NOと言える選択肢も渡す。自分で決めた仕事には責任感が宿ります。
私が相談を受ける中でも、押しつけられた人ほど動きが鈍く、選んだ人ほど粘り強い。任せ方ひとつで主体性は大きく変わると感じています。
7. 評価をなくし、給与一律・賞与は山分けにする
もっとも驚いたのが評価への向き合い方です。評価制度には、低めの目標を立てる・短期目線になる・評価者を見て働くといった副作用がある。著者はそう指摘します。個人の売上だけで測れば、助け合うチームワークも崩れてしまう。
そこでソニックガーデンは、職種ごとに給与をほぼ一律にし、賞与は山分けにしました。評価する側とされる側の関係が消え、心理的安全性も保たれる。完全な真似は難しいかもしれません。それでも「評価で人を動かすのは割に合うのか」という問いは、すべてのリーダーが一度立ち止まる価値があります。
8. 数字より「Why(ミッション)」で経営する
売上目標のような数字は、あくまで結果であって目的ではない。著者はそう言いきります。数字でコントロールしない経営は、Whyを語ることから始まる。
なぜこの会社を始め、なぜ続けているのか。その理由こそがミッションです。ただし社員が本気でがんばるかどうかは、「自分のためになるか」にかかっている。会社のミッションと個人のモチベーションが重なったとき、生産性は自然と高まります。私も以前は数字で部下を引っ張ろうとして、空回りしました。「何のために」を先に共有したチームのほうが、放っておいても動く。順番が逆だったと気づかされた一節です。
9. 心理的安全性は「一貫性」と「論理が先」から生まれる
失敗が許される環境が、心理的安全性につながると著者は語ります。そのためにリーダーに求められるのは、一貫性と公平性。言うことがコロコロ変わったり、感情的すぎる人のもとでは、誰も安心できません。さらに大事なのが説得の順番。
人が納得するには、感情よりまず論理が先です。筋が通っていないことは、どれだけ熱く訴えても腹に落ちない。根性論では人は安心して働けないのです。私がメンターとして相談を受ける中でも、「上司の言動が読めない」という悩みは本当に多い。一貫していること自体が、最大の安心材料になるのだと実感します。
10. 採用にコストをかけ、管理コストを下げる
これは合理的に考えると「どこにコストをかけるか」の話だと著者は説きます。信用できない人を採用すれば、不安から管理せざるをえず、管理コストが膨らむ。だからソニックガーデンは採用に徹底してコストをかけ、その分だけ管理を手放しています。採用理由は案件ではなく「いい人がいるかどうか」。この方針を「ピープルファースト」と呼びます。
さらに「育てる」のではなく「育つ環境を与える」。やってみせ、やらせてみて、フィードバックする。任せて見守る関わり方。私自身、守るより見守るほうがずっと骨が折れると痛感してきました。それでも、任せた相手はやがて頼れる仲間になってくれます。
【評価】『管理ゼロで成果はあがる』を5段階で採点
筆者の視点で、複数の軸から星評価をまとめました。
| 評価軸 | 星評価 |
| 総合 | ★★★★☆(4.5) |
| 読みやすさ | ★★★★☆(4.0) |
| 実用性 | ★★★★★(5.0) |
| 独自性 | ★★★★★(5.0) |
「見直す・なくす・やめる」という引き算の発想が一貫しており、実際に運用してきた会社の言葉なので説得力があります。一方で、評価や数字を完全になくす手法は業種によって再現が難しい面も。自社に合う部分を選んで取り入れる読み方がおすすめです。
【まとめ】管理を引き算すると、組織はもっと強くなる

本書を読む前の私は、「成果を上げるには、もっと管理を仕組み化しなければ」と考えていました。会議を増やし、報告フォーマットを整え、目標をこまかく設定する。足し算ばかりの発想です。ところが現場はだんだん窮屈になり、メンバーの顔から主体性が消えていきました。
読んだ後は、まったく逆の問いを持つようになりました。「この管理、本当に必要だろうか」。試しに進捗資料と定例会議を1つずつ手放してみたところ、困るどころか相談の量が増え、判断も速くなった。引き算が、かえって組織を強くする。その手応えは小さな変化から確かに得られました。
『管理ゼロで成果はあがる』が教えてくれるのは、特別な制度ではありません。「ふりかえり」で進め方を見直し、評価や数字や管理を一度疑ってみる。その引き算の勇気です。いきなり全部を真似する必要はありません。まずは週に一度のふりかえりから。読書が苦手な方も、気になった章だけ拾い読みするところから始めてみてはいかがでしょうか。管理に疲れたすべての人に、そっと肩の力を抜かせてくれる一冊です。
合わせて読みたい
組織と働き方を見直すテーマで、こちらの記事もおすすめです。
- リモートワークの正解は「自由」にある|『強いチームはオフィスを捨てる』
- 『NO RULES』|「自由と責任」が個と組織を変える
- 『ビジョナリー・カンパニーZERO』|正しい人と価値観が偉大な組織をつくる
【著者】倉貫義人さんのその他書籍についてご紹介
倉貫義人さんは、ソフトウェア開発会社ソニックガーデンの創業者であり、独自の組織論で知られる経営者です。本書と合わせて読みたい著書を2冊ご紹介します。
『リモートチームでうまくいく』
管理のいらないチームをリモートでつくるための実践書です。本書『管理ゼロ』の土台にある「離れていても自律的に働く」考え方を、より具体的な仕組みとして掘り下げています。バーチャルオフィスや雑談の設計など、在宅勤務で失われがちな「オフィスの良さ」をどう取り戻すかに踏み込んだ一冊。リモートワークの定着に悩む方の参考になります。
『「納品」をなくせばうまくいく』
受託開発の常識だった「納品」をやめ、月額制でサービスを提供する。そんな発想の転換をまとめたビジネス書です。本書に通じる「そもそも思考」や「受託脳から抜け出す」という視点の原点が、ここにある。当たり前を疑って事業の形そのものを変えたい方、独自のビジネスモデルを模索している方におすすめの一冊です。

